MOTHER  /  police

 最近、抽象的なことに思いをめぐらす時間がなく、殺伐としていた。
夜、どうしても音楽が聞きたくなり、ヘッドフォンを持ち出した。Stingの「NOTHING LIKE THE SUN」。なんの期待もなく選んだCDだが、鳴った途端、あっけなく潤ってしまったことに驚く。
思考の鉱脈を掘り当てた気分。



 夜の音。
冬の朝の匂い、夏の夜の匂い、季節や瞬間にそれぞれ匂いがあるように、空間にはその時々の「音」が存在する。
夜に満ちているのは、ソプラノサックスやオーボエのような、木管楽器の少しくぐもった高い音。夜の遠いところから聞こえるように思うのは、耳の端でしか捕らえられないからだ。
曲ではない。ただ、音。

 ある男の顔。
高校生の時、岩波ホールで見た、映画「モリエール」の主演男優。フランスの前衛演劇「太陽劇団」の演出家が手がけた映画。ルイ14世時代の喜劇作家モリエールを描いた映画は、細部の汚し方が気に入っていた。
 衣装にじっとりと染み出す汗。砂漠の天蓋のようにはためく、粗末な舞台幕のサンドベージュ。
祭りの日、街頭で演じられる無言劇の、ガイコツのマスクで顔を包んだ役者の踊るような仕草。猥雑さと辛らつさ。

 その男を見ると、ろうそくの燃え止しの煙の匂いが鼻をかすめた。
祭りの終り。喧騒が過ぎて、けだるさの残る中、ひとつひとつ消されてゆくろうそくの、立ち上る一筋の煙。終息する狂気と、まだ冷めやらぬ興奮の入り混じった、一筋の細い煙。
本能的な恐怖と、抗いがたい魅力。




と、まあ、こういった感覚が、音楽を聴いているうちに溢れ出したのだ。
 以前、ドイツ中世の拷問道具についてのメルマガをやろうと企画していた。資料を探しているうちに、なんというか、モノが拷問だけに、痛いというか気持ち悪いというか、それに魅力を見出す人に(自分もそのひとりだけど)さらにウンザリしてしまって、ちょっと頓挫したままなのだ。
 また、最初はただの紹介文、あるいは拷問道具批評をしようとしていたのが、いつものごとく、思いをめぐらすうちに少しカタチを変え始めていた。
 そして、このモリエール役の俳優を思い出し、その打ち捨てていた企画に、瑞々しい潤いがあふれたのである。ただ、この鉱脈に本当に宝が眠っているのか、一鉱夫である私には知るよしもない。

ガイコツが笑っている。


 そのガイコツの笑い声が、policeの「MOTHER」である。
(やっと表題が出てきた)
Stingの印象の強いpoliceだが、一番好きなのは実はこの曲だ。

と、いう風に、曲の紹介や批評ではなく、そこから派生したイメージのようなものを書き止めてゆくのが、コンテンツ「music」なのである。
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# by diamonds-pearls | 2004-12-20 02:19 | music

イルクーツク、7月




ロシア正教会の丸屋根は
7月の明るい空気を光らせ、
外壁もまだ、白く清潔なままだが
もう、鐘を鳴らす人はいない。

重い立派な木戸を開ければ、
ベンチも祭壇もなく、

代わりに
トナカイや鹿、シベリアの大きな熊、象、
ライオン、豹、狼、イタチ、ネズミ、
おびただしい数の剥製が、
多分なんの意味もなく置かれていた。

あるものは壁に、
あるものは天井から、
あるものは大きなものの腹の下に。


漆喰の剥がれを隠すかのように
甲虫と蝶、蛾が、壁を覆い尽くした。
箱にピンで留められたまま。

引き出しには、鳥。
ていねいに羽根を折りたたまれて。

祈りに頭を垂れた場所にさえ、
荒々しい骸が、捨て置かれた。
足についた土を払うこともなく。



まるで魂を積み忘れた箱舟。

どの岸も見つけられないまま、
結局、この街と共に沈んでいくようだ。
地下室の床に、イコンを散らかしたまま。


雨はまだ降らない。
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# by diamonds-pearls | 2004-12-08 00:57 | poetry

mexico




牢屋付きのバスで、どこまでも走って行く。

私は牢屋に乗っているが
なぜか明るいのはメキシコの空。
乾いた土はほこりをたてるから
格子があるくらいでちょうどいいはずだ。

荒くれて、誰も口をきかない、静かな
バスに乗って、外はまぶしい光の中。
のんびりと揺られる。

バスを水色に塗ろうか。

ジャリジャリと砂混じりに
すぐに乾くだろう。

空と同じ色の牢屋付きのバス

日が暮れても、どうせ誰も走っちゃいないし
道だって真っ直ぐ。
なんだか月も明るいし。


何もなくても、うらやむことはやめようか。
何も得られなくても
格子ごしに見ることぐらいできる。

バスは走るし、運転手だっているはずだ。

格子にもたれて、私は走る。

バスの平たい背中に
ブルーはキラキラ光る。
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# by diamonds-pearls | 2004-12-01 23:35 | poetry

私のかわいい小さな男の子



あなたのために夜をしつらえたの
柔らかな衣と
優しい歌と
よい香りのする寝具とで

私のかわいい小さな男の子

あなたの心臓を
目をつむって探すけれど
指に触れるのは
いつも自分の胸の棘だったの

私のかわいい小さな男の子

ふるえる鳩のような心臓を
そっと包むように
守ってあげようとするけれど
毎夜毎夜
あなたの手足は
しつらえのすべてを台無しにする

きっと夜が、あなたの鳩を
飛び立たせようと急かすから




何度でもしつらえよう。

だから
小さな眠りが降りてきても

私のかわいい男の子

息をするのをやめないで
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# by diamonds-pearls | 2004-11-29 22:25 | poetry

モレスタ広場




港から通りを三本入ると、小さな広場がある。
コンクリートの地面は色あせて、誰もいない。
古いベンチと、曲がったゴミかごに
紙くずのような鳩。

それを見下ろす二階に宿をとった。


街へは列車で着いた。


フロントからはいつまでも
テレビの音がやまない。
厚くペンキを塗りすぎて
窓は閉まらない。

こんなに南に来ても、夜風はまだ冷たい。

と、遠吠えのような男の叫び声。

犬のように死んだのか、
犬のように、今、産まれたのか。
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# by diamonds-pearls | 2004-11-29 22:18 | poetry

椅子の上の女

椅子に座り、女がこちらを見ている。

痩せた胸骨は、まるで鳥かご。

中には、壊れた機械仕掛けの鳥が住んでいて
羽根をくるくる回して、から騒ぐ。

期待に胸をふくらませ、
情熱のため、羽根ばかりが大きく。


足は、止まり木にネジで留められた。


鳥は、ゼンマイがいつ止まるのか、知らない。
巻き上げられた力の限りに
ただ狂おしく、から騒ぐ。




女は服に胸をかくし、
身じろぎもせず、そこにいるが。
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# by diamonds-pearls | 2004-11-29 22:09 | poetry

蜜月


もう、私の胸を叩くのをやめておくれ。
私の胸はもうお前にすべてをやって
薄皮ばかりになってしまったのだから。

私の腕の中で、なにひとつお前を理解できない。
裏切られているのか、
それともそんな約束は、
最初の日からありもしないのか。

私が求めるようには返ってこない、
その、ものの名は、あまりに陳腐な食べ物なのだ。
胸にはかつてあふれていたが
ついにお前の口には入ることはなかった。

胸を開くたび、お前は口を閉じて
お前も私も、その食べ物で腹を満たす事はなかった。

蜜月は終ったのだ。

ただ、腕の中でお前はあばれ、
私はひとりごとのように話し掛ける。
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# by diamonds-pearls | 2004-11-29 21:46 | poetry

はじめまして

はじめまして。大矢 真珠(ohya sinju)です。


2002年から、詩(と言っていいと思うけれど)を発表し始めました。
ここでは、それら詩を含め、日々のイメージを書き留めていこうと思います。
いつか、もっと違う形になっていくかもしれないし
記憶のどこかに埋もれていくかもしれない。
それら、生まれた言葉たちを生まれたままに、
ここに置いておきます。




風景を言葉でもって写し取りたい。

風景の中には、すでにたくさんの言葉があり、
それを前にして、いったい「私」の思い(心情)に
どれほどの表現価値があるのだろうか。
と、同時に、どんな風景でさえも
「私」の思いなしには、なにも姿を現さない。
見る者が、それにモノガタリを与えるのだ。

フィクションというリアリズムは可能だろうか。

はるかなものには
名前を付けなければ、いつまでも掴むことが出来ない。

あの一瞬、あの焦燥、こがれる狂おしさ。
はるかな何か。
その名前を探すことが、私にとっての言葉。






ネットを通してお知り合いになったイラストレーター、しろう宗康さんとコラボレーションをさせていただいています。
こちらもぜひ、どうぞ。
しろう宗康さんのカッコいいサイト『 37℃微熱 』
コンテンツ『collaboration』から、ごらんいただけます。



えーと、それから、名前は愛するPRINCEの曲名に由来しています。
別に昼ドラ好きでも、昼ドラ女優好きでもありませんので・・・(笑)。
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# by diamonds-pearls | 2004-11-28 13:28 | はじめに

キューバ


 空港に迎えに来たのは
 見知らぬチョコレート色の男。
 車のメーターはどれも壊れている。
 連れ去られるようなスピードで海岸線を走る。
 夕暮れのパープル。
 油田の炎。
 ガソリンの臭いにまじった
 甘ったるいラムの香り。
 バラデロ。
 パラディ、とは似て非なるもの。
 きっと天国のようなビーチと信じて。
 こんな寒い夜の闇ではなくて。
 

 寒いビーチにねそべる
 借り物のような私
 いや、この長イスや白い大きなタオルだって
 みんな借りたもの
 2ドルで


 日に何度もNOという。
 

 キューバ人には
 キューバ人の都合というものがある。
 だれでも踊りが上手いわけじゃない。
 カルデナス。
 昨夜、私は踊りたかったのに
 彼はふざけて腰をあわせた。
 不快なことだが
 私もふざけて笑った。
 ちょっとした気遣い。
 キューバ人にも都合というものがある。
 カルデナスという小さな町の
 道の小さな水たまり。
 彼の体には、小さすぎるTシャツ。
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# by diamonds-pearls | 2004-11-28 06:35 | poetry

アーモンドの木



雪が降っている。
戸はもう、重く開かない、しばらくの間は。
厚く積もった雪は、この部屋を孤島にした。
ベッドの中は体温で暖かく、
まだしばらくは、食料もある。

詩人の女は、恋人たちを
果肉に包まれたアーモンドの実にたとえた。
種の中で向かい合う、一対の白い胚のようだと。
「教えて、私達のアーモンドの木はどこにあるの?」
彼女は、訊ねるばかりで
自らの成る木を見つけられなかった。

向こうの丘には一本のさみしい木があり、
その先、林檎の林の入り口を教えている。
冬の始まりには、私たちはよくそこを歩き
気まぐれに林檎を頬張った。
手のひらに入るほどの小さな林檎。
幾つかをまだ木に残して、おそらくはこの雪の下で
凍りながら土に返って行く。

この土地にアーモンドの木は育たない。
(冷たさに、根を広げることなく)

「教えて、私達のアーモンドの木はどこにあるの?」
なるほど、いつだって確かなものが必要だ。
私もさっきまで、手探りでそれを探していた。
けれど、雪がすべてをおおって
私たちの木もまた、見つけ出すことが出来ない。
(足ばかりが、シーツに絡まり)



明日、重いドアを開けて
私は外へ出るだろう。
あなたのまぶたは閉じたまま
きっと、私が靴を履く音にも気付かない。
埋もれた道を探し、川沿いに駅まで歩いていこう。
切符は列車の中で買えばいい。

列車に乗るのだ
明日こそ。
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# by diamonds-pearls | 2004-11-27 20:48 | poetry